Img_yuigon


私は結婚して10年になります。
結婚する前は実家暮らしでした。

私には4つ離れた姉がいますが、
姉は結婚していたので実家で暮らしていたころはいませんでした。

今でこそ生前に遺言書を書いたり、お墓を建てたり、
はたまたお葬式まで死ぬ前に自分で決めておくのも選択肢になってきましたが、
10年前はそんな事はなく死ぬことを話題に出して率先して向き合い、
自分で決めるというのはまだまだ珍しく、 少し驚かれる時代でした。


そんなある日、 母が引き出しから1冊のノートを取り出しました。
普通の大学ノートに色々書いてあります。
聞くと、 それには姉にどのくらいお金を使ったか、 私にどのくらいお金を使ったかを、 思い出せる限り書いてありました。

例えて言うならば、 高校までは記入されていませんでしたが、
姉にかかった専門学校や、結婚式、 結婚に付随するその他の費用など。

私には運転免許でかかった費用などが書かれていました。
どうしてそんな金額を書き出したのか聞いてみると、
財産分与の時きっと役に立つというのです。

分与するほどの財産があるのかどうかは別にして、
喧嘩しないように平等になるように記帳したと言いました。

そして遺言書も書いてありました。
それからお葬式についても書かれていました。
音楽はこの曲を流してほしいとか、 散骨してほしいとか。母の希望は明確でした。

そして、 その遺言書が存在する事を当時まだ50歳の若い母が私にしっかりという事はとてもすごいことだと思います。
ちなみにですが、 死に向き合わなくてはいけないような病気を患っていた訳でもなんでもありません。


どちらかと言うとアクティブで元気はつらつな母です。

そして、母はさらにこういうのです。
この内容は随時変わっていくのだと言いました。
そりゃそうです。
生きていくということは日々変わる。
気分も変わる。
だから内容も変わる。
ほんとうにおもしろい母だと感じました。

その遺言書は、ただの大学ノートにつらつらと書かれたものなので、
正式な遺言書でもなく、 きっと法的にも力はないかと思います。
それでも、 母は自分の死や人生や父や私たち子供の事を考えて、
色々悩みながら一人で書いていたんだと思うとそのノートを知っている私は、
母に何かあった時、 そのノートの存在を父と姉に知らせ、
母の希望を実現させてあげなくてはならないと強く思います。

私も結婚し、実家を出ることになってから10年が経ちましたが、
母の遺言書ノートを見せてくれたあの日以来、 その話は一度もありませんでした。

母は今も元気に生きています。
内容も幾分更新されてきている事でしょう。
その更新はこの先も長く長く続いてほしいと思います。

私も10年前と今と随分と変わりました。
結婚する、自分の人生を生きています。
でもまだ母のように死に向き合うことはできません。
自分の思いや大切なものを守ってやりたい、 残してやりたい、 伝えてやりたい、
そんな存在が私にはまだいないからだとおもいます。


人はいつか死んでしまいます。
でも母が残してくれた私という存在はその母の思いをしっかり引き継いでいきたいです。
母の思いの詰まった遺言書ノートは実家の引き出しにしまってあります。
そして、 今年も更新されているはずです。